いまはもう使われることのない、平安時代の言葉に「心葉」というのがあると聞きました。《こころば》と読むそうです。
人に何かものを贈ったりする時に、季節の花や押し花を添えて気持ちを伝える行為を意味する言葉だったそうです。
豪華な花束もいいけれど、何かに添える一輪の花で季節感を演出するのも素敵ですよね。
突然こんなことを考えたのは、週一回ボランティアをしているホスピスで、「言葉の風景」(野呂希一・荒井和生著/青菁社)という本に出逢ったのがきっかけでした。何気なく使っている言葉を季節ごとに集め、写真とともに紹介した本で、この筆者は他にも「文字の風景」「こころの風景」などのシリーズを手がけています。どれもきれいな本で、贈り物にもいいのではないかなと思います。

いまの季節はホスピスの庭も夏枯れですが、たとえ花がこぼれんばかりに咲いている季節でも、過剰にならないように気をつけているつもりです。ぼくは変なところでサービス精神がある分、「あれもこれも」になりがちなので、気をつけたいと思います。一輪の花、一枚の葉を大切にあしらわなくては……。

「こころば」という言葉もこの本で知りました。
この本で《春の章》をみていくと「立春」「春めく」「めばえ」「きざし」などのいかにも春らしい言葉の中に「漲る(みなぎる)という言葉もあります。もともと春の言葉とされていたらしい。春の語源は「張る」または「発る」。その「張る」にサンズイがついて「漲る」に化けたそうです。。雪解けの水が溢れるばかりに満ちる様を言い表した言葉です。
ちなみに、勢いよく水が飛び散る様は「迸る」(ほとばしる)。「飛び散る」が「とばしる(と走る)」⇒「ほとばしる」に変化したものです。名詞形は「とばしい」。
トラブルなどに巻き込まれる意味の「とばっちり」は「とばしい」からの転用とのこと。
春でもないのに最近、仕事がらみで「とばっちり」が多いのは、季節感が希薄になっていることとは関係ないとは思いますが……。


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- 2007/08/29(水) 19:16:48|
- ホスピス
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夫婦でホスピスに入院してきた患者さんがいた。奥さんの方がまだ状態はよく、これまでの夫婦の関係もあってか、ご主人の世話をする場面をよく見かけた。
ご主人は病気の影響で、言葉がうまくしゃべなくなっていた。声は出るのだが、言葉がどうしても聞き取れない。医療スタッフとご主人の意志の疎通の多くは奥さんを通じて行われていた。それがストレスになって、時々奥さんに当り散らすことがあったようだ。病室の前を通ると、意味不明の怒鳴り声が聞こえることがあった。
だんだん病室は重苦しい空気になる。
やがて奥さんは転院する。一度は無理と言われたが、手術できる可能性を求めたらしい。
そしてご主人は独りになった。
少し緊張しながらボランティアが病室に伺うと、ご主人はベッドの上でスケッチブックを持って迎えてくれた。
少し震えた文字でこう書いてあった。
「わたしは言葉がうまくしゃべれないので、ごめんなさい。いつもありがとうございます。みなさんには感謝しています」
コミュニケーションを奥さんに丸投げしていたようなご主人は、自分で意志を伝えようとするようになった。短い言葉を区切るように、ゆっくりと搾り出そうとする。その宝石のような言葉を、受け取る方も懸命に聞き取ろうとした。
ご主人は時々、煙草を吸うためロビーに出てくることがあった。火の危険があるし、ベッドごとの移動になるので付き添いも必要になる。ナースといっしょに移動の手伝いをした。
「奥さん、どうしてるかしら?」
付き添いのとき、何気なくナースが漏らした言葉。横で聞いていた僕も、言葉を発したナースも思わずはっとする。
ご主人は少しだけ辛そうに、一語一語言葉を搾り出した。
「きっと、元気でやってるさ」
そう言って笑った。

●画像presented by microsoft online


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- 2007/08/08(水) 18:30:30|
- ホスピス
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ホスピスに勤務している、僕が尊敬しているドクターが言っていたこと。
「森のような存在でありたい」
その時は、ドクターの真意を聞くことができなかったが、この言葉を僕なりに解釈してみた。
日々、自分の内側からさまざまなものが生まれていく。そのうちのいくつかは芽を出し、花を咲かせ実をつけることもあるだろう。実がついたら、周りの人たちに少しでもお裾分けする。花が咲いたら誰かといっしょに楽しむ。
森だから、積極的に探索も試みる。時にはやんちゃな小動物が顔を出し、驚かされることがあるかも知れない。毒を持ったヘビや凶悪な牙を持った猛獣でないことを願っているけど。毎日何が出てくるかワクワクしていたい。
あの時、ドクターが言おうとしていたことはそういうことだったのだろうか?
別の日、ドクターと話をする機会があった。「森」の話を覚えているかどうか分らなかったけど切り出してみる。
「でもドクター、森だから迷うこともありますよね」
ドクターが答える。
「もちろんある。でも、それは自分の森なんだ」
たったそれだけのこと。でも、なんだかうれしい気持ちになった。

これは、ちょうど1年前に別のブログに書いた日記。なかなかこういう風には生きられないのだ。遭難しそうになることもしばし。それと最近、僕の森の中にゴリラがときどき登場するのだ。
尊敬するドクターは「がんの人以外もケアできる場所を作りたい」と言ってホスピスを辞め、ケアマンションに診療所を開設した。


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- 2007/07/25(水) 18:36:53|
- ホスピス
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「カップが好きでね、あたくしも行ったことありますけどさ…」
ホスピスにいると患者さんの昔話に耳を傾けることも少なくない。コバヤシさんは70代の女性。足が少し不自由だけど、髪もきれいに整えて、ちょっと目には病人にみえない。若い頃は海外にもよく出かけたらしく、コバヤシさんの昔話を聞くのは楽しい。この日は、ハンガリーの陶器の話に花が咲いた。
「ヘレンドというメーカーなんですけどね、あたくしはそこのカップが好きで、工房まで出かけたことがあるんです。まだ直行便がなくて…今はあるのかしら…それはともかくパリ経由で行きました」
ラウンジの開店までは間があるが、カウンター越しに話を聞く。話に力が入って喉が渇いたらしく、コバヤシさんはセルフサービスのコーヒーに手を伸ばす。
「え…と…お金はどこに入れるんでしたっけ?」
この光景にも慣れた。コバヤシさんは、最近の記憶を長い間保持していることができなくなっているのだ。でも、他人にものを教えてもらうのは嫌なタイプの人。だから、メモに書いて渡してあげるようにしている。ラウンジの開店時間、コーヒー一杯の値段、お金の払い方…など。これまでも随分メモを書いて渡した。出前はどうやって頼むか、外出届けは誰に渡すか、ちょっとした買い物ができるところは…などなどなど。そのメモたちを肌身離さずに持っている小さなポーチに入れているのだ。そうしないと「メモをもらったことを忘れてしまう」のだそうだ。
実のところ、ラウンジの開店時間はあってないようなものだ。お見舞いの人に開放する時間帯は決まっているが、入院患者さんはいつでも好きなものを注文することができる。
ボランティア仲間のナカダ君は「患者さんには開店時間なんて関係ないんだから、いつでも好きな時に声をかけて下さい」と言って、ラウンジの開店時間のメモを渡さなかった。気の毒に、そのせいでコバヤシさんから恨まれてしまっている。
「あの人は、頼んだのにメモを書いてくれなかった」と。
「いつでも好きな時に〜」と声かけされたことはすっかり忘れてしまっているのに、何かを《してくれなかったこと》だけはなぜか覚えている。どういうメカニズムかは分からない。
でも、いっしょにいる人は、きっと辛い気持ちになることが多いだろう。《点》でしか関わらないボランティアだから、比較的穏やかに接していけるのだと思う。

コバヤシさんは《ラウンジのお金の払い方》について書かれたメモを発見して、小さな貯金箱に50円を入れた。コーヒーをカップに注ぎ、話の続きを始める。
「ハンガリーは昔から、寄ってたかってボコボコにされた国なんです」
「それは…侵略されたりとか、そういうことで?」
「そう。それだからラビのおじさんが壁に向かって泣いてるんです。これからもずっと泣くんでしょうね。よく涙が出るものですね」
ラビのおじさんの涙も、コバヤシさんには楽しい思い出だったようだ。
いずれにしてもコバヤシさんは、これから新しい思い出を重ねることはあまりない。それについて周りができることはほとんど何もない。せいぜいが聞き役を務めることぐらい。幸せな気持ちになれる思い出せる思い出があるのなら、残された日々を思い出に生きるのもそんなに悪いことではないのかも知れない。


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- 2007/07/24(火) 15:54:07|
- ホスピス
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常連同士が意気投合し杯を重ね、予想外の忙しさになる。めったにあることではない。ここはホスピスの近くにある、がん患者とその家族のためだけに作られたバーだから。

ホテルのバーにはかなわないけど、それでもそれなりに酒は揃っている。ウイスキーがお好みで、いつもは水割り専門のシンジョウさんの奥さんも、この日は他のお客につられてカクテルに挑戦。「ウイスキーベースでおまかせ」とのことなので「キングスバレー」をチョイスした。緑色の材料を一切使わずにきれいな緑色に仕上げるのがこのカクテルのポイント。甘くなく、すっきりとした飲み口。

●スコッチ4/6 コアントロー1/6 ライムジュース1/6 ブルーキュラソー1tsp かなり強いが甘口がお好きなハナダさんのお嬢さんは「花椿」をオーダー。果実系が好きな人にはおすすめだ。

●ブランデー40ml クレームドカシス10ml フランボワーズ10ml ライムジュース1tsp ご主人がホスピスに入るまでバーに来たことがなかったというヤナギダさんの奥さんは、この日がカウンターデビュー。「全然強くないの。私に飲めるのあるかしら?」と、少しだけ不安げなご様子。結局「おまかせ」とのことだったので、「飲めない人用」に準備していた新しいメニューの中から「ボヘミアンドリーム」を出してみた。お気に召すかな? オーケーだったようだ、よかった。

●アプリコットブランデー15ml グレナデンシロップ30ml オレンジジュース2tsp レモンジュース1tsp ソーダ水
※写真は炭酸控えめのタイプ。通常はタンブラーに入れて出します。 たくさんのカクテルグラスが空になり、そろそろ閉店の時刻。最後のお客を送り出し、「閉店」の札をかける。このバーのバーテンダーを務めるうえで忘れてはいけない一つのルール。それは「次の約束をしない」こと。「またお待ちしています」と言わないこと。僕は週に一度、金曜日だけこのバーでシェーカーを振るだけの存在。次の金曜日には、今日のお客さんたちの誰かがいなくなっているかもしれないから。
今夜、すてきな時間な時間を過ごせてもらえたのなら、そのことに感謝しよう。明日のことは誰にも分からないから。
初出:2005年05月31日
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- 2007/07/10(火) 10:31:00|
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みなさん、はじめまして。日曜日に活動している河上と申します。2カ月間のボランティア研修講座も今日が最終日ですね。ボランティアの日常の活動について少しお話させていただきます。
現在日曜日は人員の関係もあって、活動内容が平日に比べシンプルになっています。午前中の主な仕事は公共スペースの清掃・環境整備、洗い物に食器の整理、花の水替え、庭の手入れ、魚の飼育などがあります。昼食の配膳をしていわゆるルーティンワークは一段落です。
あとは患者さんや家族の方のニーズに応じて…ということになります。話し相手をすることもあれば買い物の代行、散歩の付き添いやマッサージをすることもあります。30〜40代で入院する方もいます。子どもが小学生ぐらいでまだまだ手がかかります。夫婦で今後のことを話し合う時間も必要ですし、残り少ない時間を二人で過ごしたいという気持ちもあるでしょう。そんな時にお子さんの相手をすることもあります。
今日の主な活動「ドラえもんのビデオを子どもといっしょに観ました」という日もあります。
午後はラウンジで喫茶のサービスを担当しています。夜はカクテルなどお酒も出しますが、昼間のラウンジのメニューは珈琲、紅茶、抹茶、ココアにジュース各種。今の季節の人気メニューはかき氷ですかね。
それと、年3回発行している「ホスピス通信」という小冊子の編集作業をしています。これをまとめたものが過去に二度本になっていることはご存知だと思います。みなさんが受講しているボランティア講座のテキストにもなっていますから。
さて、本日はボランティアコーディネーターから「男性としてボランティア活動にどう取り組んでいるか」について話をするよう言われています。今年は約50名の方が講座を受講されていますが、そのうち男性は6名と伺っています。現在約100名が活動しているボランティアのうち、男性の比率は1割です。僕が始めた時に比べると倍近くになっていますが、この数年この比率はほとんど変わっていないようです。その意味ではホスピスボランティアというのは女性中心の世界なんですね。
与えられたテーマについて自分なりに考えてみたり、同僚のボランティアと話し合ってみましたが、結論からいうと、僕は男女の壁って意識したことあまりないんです。もともと「男性用の仕事/女性専用の仕事」というものはありませんから。
ただ、常識的に線で女性のボランティアとの仕事の割り振りは行っています。女性の患者さんのマッサージを依頼された時は女性のボランティアが担当するとか、男ではよく分からないような買い物の依頼を受けた時も「お願いします」と女性に任せています。あとは荷物を運ぶときは重たい方を持つとか…あくまでも常識的なラインでやってます。
それでも、一般的に縫い物とかアイロンがけとかは女性の方が得意なことが多いですよね。女性の側でも男に任せることに抵抗がある方もいらっしゃるので、男性ボランティアはルーティンワーク以外に「自分の仕事」を探して自分らしく活動している方が多いようです。
日曜大工が得意な人は、庭のベンチのバランスが悪ければ修理するとか、建築事務所で働いている人はドアの建て付けを調整するとか、介護関係の仕事をしている人は車椅子のタイヤの空気が適正に入っているかチェックするとか…。木登りが得意な人は屋根の樋につまった落ち葉を掃き掃除するとか…ね。
僕の経験では、お酒が好きなので、夜のラウンジで季節感を演出したオリジナルカクテルを考えてみるということがありました。
女性の方が柔らかくしなやかに対処できることが多いので、女性が動きやすいように気を配ることができれば大丈夫なのではないでしょうか。
「普段の活動で心がけていることを最後に述べろ」とリクエストがありましたので答えてみたいと思います。
ホスピスに入るには二枚のドアを通りますよね。一つ目のドアを通れば公共スペースに入れます。二つ目のドアを抜けるとプライベートな空間に足を踏み入れることになります。
二つ目のドアを通る前に日常を引きずるのはやめて、気持ちをリセットすることを心がけています。実際はなかなかできないこともあるんですけど…ね。
それと、家族の理解を得られるようできるだけ配慮すること。ボランティアを始める前、僕は結構仕事人間で、職場と家を往復する毎日でした。言葉は悪いですが、家事ができなくても「仕事に逃げる」ことができました。それが…ホスピスに来るようになってから通用しなくなってしまいました。
ある日の家族の会話。
「家事よろしく」
「忙しくて無理かも」
「ボランティアはできるのに? 家族のためにボランティアしてよ」
チョンチョン。特に男性の場合、家族を敵に回すと継続的な活動はできないと思います。
ホスピスでボランティアするなら「細く、長く」という考えでやることをお勧めします。10年前に比べてホスピスに関する情報は増えています。みなさんもそれぞれの「ホスピスのイメージ」をお持ちだと思います。でも、本に書かれているようなドラマチックな出来事は毎日起こっているわけではないのです。
「とりあえず1年やってみよう」と思うことは悪くないと思います。でも「この1年はこれに賭けよう」とは思わない方がいいのではないでしょうか。イメージと実際のギャップが大きすぎることになるかもしれないし、働きながら活動することは意外と大変な時もあります。あれもこれもと詰め込みすぎては、何かあった時に全てがガタガタになってしまう怖さもあります。どのみち、1年では見えてこないことがあり過ぎます。
僕が見えているとも思ってはいません。おそらく何年やっても見えるものではないのかも知れません。
ボランティア活動を難解な、長い映画に例えれば、今日で研修を終える皆さんは、失礼ながらレンタルビデオで映画のパッケージを読んだという段階なのかもしれません。活動を始めてからも最初の3カ月は先輩について実地研修を受けることになります。1年やってみて、ようやく映画の予告編を観たというところかも知れません。「自分らしく」活動したいという方は、自分のペースで、長い目で活動することをお勧めします。この映画は何度も観ても、観るたびに印象が変わります。「予告編」だけ観て終わりではもったいありません。
つたない話を聞いて下さってありがとうございました。いっしょに活動できるのを楽しみにしています。
6月29日に新人ボランティア研修で10分間のスピーチをした時のメモより。
「森の話」は時間がなくてできなかった。
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- 2007/07/10(火) 01:30:16|
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