『世界
悪女大全』には実に69名の“
悪女”が登場する。本書は全14章で構成され、次のような
悪女の分類がなされている。
1章
悪女が「性」に狂うとき
2章 果てしなく「残虐」な
悪女たち
3章 「金」が
悪女を狂わせる
4章
悪女が「権力」を欲しがるとき
5章
悪女が「歴史を動かす」とき
6章 「不倫騒動」の
悪女たち
7章
悪女が「復讐」を決意したとき
8章
悪女が「嫉妬」に狂うとき
9章 権力者が愛した「魔性」の
悪女10章 「高級娼婦」の
悪女たち
11章 「スキャンダル」にまみれた
悪女たち
12章 「男で身を滅ぼした」
悪女たち
13章 「犯罪」に生きた
悪女たち
14章 「現代」の
悪女たち
著者の桐生操氏は、世間で言われる「
悪女」は男目線で築き上げられた都合のいい
悪女が多いと論じている。たとえば「神秘的で謎を秘めた女」「気まぐれでつかみどころがない女」「童女みたいに天真爛漫な女」など、男の女に対する願望からつくられた女性像に過ぎないという。
一方で、女性の方も男の気を惹くために、コケットリーの一部としてそうしたイメージを故意に身にまとう=
悪女の演出=ケースが少なくないという。
「本当の
悪女というのはそんな生易しいものではない。相手の男性はおろか周囲の人びとまでを自分の野心や欲望の犠牲にして滅ぼしてしまう、いとも恐ろしい存在なのです」(本書まえがきより)
著者も述べているように、現実にいる女性には「
悪女」と「聖女」の両方が混沌と混じり合っている存在ではないかと思う。女目線で選び出された「
悪女」たちのエッセンスを自分のキャラクターにも注入したいと願っている。
ここに描かれた女性の中でおつきあいしたいと思うタイプは、残念ながら皆無だった(苦笑)。でも、惹かれてしまうだろうなと思った「
悪女」は次の面々。

陽気な貴婦人革命の中心人物 エカテリーナ女帝

無欲な寵姫 ルイーズ・ド・ラ・ヴァリエール

海賊船に襲われハーレムに送られて エーメ・デュプック

二十歳年下の国王の寵愛を二十年間受けた ディアヌ・ド・ポワチエ

最下級の娼婦が磨かれて マリ・デュプレシ(『椿姫』のモデル)

肉体を売ることに何のためらいもなし エヴァ・ペロン(エビータ)
いずれにせよ、女性の業を深く描くような小説は僕には描けそうもない。ストーリーテリングに磨きをかける方に専心した方がよさそうだ。


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- 2007/10/08(月) 15:53:56|
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「ここに一人の男が殺されています。私が殺したんです。私は逃げも隠れもしません。いまから愛する娘のもとに参りますので」
サリー・ポタートンは夫の死後、
ナースとして働いて一人娘を育て上げた。ところが娘のペニーは高一の頃から派手な化粧をして夜遊びするようになり、高二のとき、ついに恋人と家を出てしまった。
ペニーは同棲相手のモーリスに麻薬パーティに連れて行かれる。ロックの音楽が響きわたり、アルコールと煙草の臭いが満ちた会場。やがてうす暗闇のあちこちで男女が服を脱ぎ始め、絨毯の上で淫らな格好で絡み合う。ペニーも裸の男に隅のほうに引っ張っていかれ、床に組み敷かれて犯されてしまった。
その後はアルコールで朦朧となったところを、次々と男たちに犯されたうえ、麻薬の注射までうたれた。
ペニーはやがて薬なしではいられなくなり、その費用を稼ぐため通りで身を売るようになった。
そんな生活をつづけてきたペニーが妊娠してしまったため、モーリスは激怒し、ペニーに殴る蹴るの暴力をふるった。顔は腫れあがり口から
血を流し、腹を手でおさえながら、ペニーは部屋中を逃げ回った。毎日のように暴力はつづき、ついに耐えられなくなったペニーはそこを逃げ出し、恐る恐る我が家の玄関に立った。
ドアを開けた母のサリーは仰天した。ぼろぼろの服、垢と泥でまみれた体、膨れた腹と、あまりの変わりようにすぐに娘と気づかなかったほど。でも浴室に連れて行って体を洗ってやると、全身にできた打撲の痕、無数の
注射針の痕に、何もかも分かったような気がした。力のつく料理を食べさせ「悪い夢をみたと思って何もかも忘れるのよ」と言い聞かせて、翌日、サリーは仕事に出かけた。
ところが帰宅するとペニーの姿はなく、テーブルに置手紙があった。
「私は汚れきってしまいました。もう前のようなきれいなからだには戻れません。自分で自分の一生を台無しにしたのだから、責任は自分でとります」
翌日。川で変わり果てたペニーの姿が発見され、サリーは呆然とその場にたたずんだ。心には、モーリスへの憎しみが湧きあがった。
その日からサリーは、娘から聞いていたモーリスの実家の物陰で、彼が現れるのを待った。時おりここに帰ってきて、金や食べ物を巻き上げると聞いていたのだ。
二日、三日と待ち続け、四日目になったとき、夜霧の彼方に人影が浮かび上がり、それが憎んでも憎みきれないあの男であることにサリーは気づいた。前をすっと通り過ぎようとするモーリスの後を慌てて追い、手にしたサービスを彼の背中に押し当てた。
「抵抗すれば殺すよ。ペニーがあんたに会いたがっている。あの子は病気なんだ」
「わ、わかったよ、おばさん。物騒な真似はやめろよ」
モーリスはピストルを突きつけられたまま歩き続け、サリーの家に着いた。サリーは娘の部屋にモーリスを招きいれ、ベッドに横たわるよう命じる。モーリスは嫌な予感がしたが、仕方なく横になった。次の瞬間、腕にちくりと痛みを感じ、すーっと意識が遠ざかった。
意識が戻ったとき、彼はベッドの四隅に縛り付けられ、腕に
注射針をテープで固定されていた。サリーが何か器具を持って入ってきて、その管を彼の腕の
注射針に連結させた。モーリスはその管を通り、自分の
血がぽたぽた落ちていくのをみてギョッとする。
「な、何をする。ペニーはどこなんだ?」
「こうしないとあの子には会えないんだよ。もうこの世にはいないんだから」
彼の背を冷たいものがすーっと走りました。
「あの娘が死んだのはあんたのせいだ。あんたにも同じ目にあってもらうしかないね」
モーリスはこうしている今も、自分の
血が着々と抜き取られていることを知った。そのまま数分、数十分が過ぎ、静かに流れ落ちる彼の
血は、真紅の鮮やかさを増しながら、瓶の中で増え続ける。
「助けて! おばさん、後生だから助けて!」
モーリスは必死に叫んだ。
「僕が悪かった。そんなことになっていたなんて知らなかった。本当だ、許してよ、おばさん!」
知っている限りの言葉を並べ立て、必死に命乞いをしたが、サリーは意地悪い微笑を浮かべ、じらすように彼の顔をのぞきこむだけだった。
時に相手の訴えに心を動かされたふりをしてゴム管に手を伸ばす。が、すぐにまたスッと手を引っ込め、後はぽとりぽとりと鮮やかな
血のしずくが容赦なく落ちていくだけ。息を呑むような攻防戦を続けたあと、やがて朝は近づき、モーリスの声は悲鳴というより、意味不明の呻き声でしかなくなっていた。
サリーは黙って男の顔をのぞきこみ、腕をつかんで不規則に打つ脈を読み取った。脈がしだいに弱まり、ついに完全に止まってしまうと、サリーは男の真っ青な顔をまじまじとみて、憎しみをこめて
唾を吐きかけた。
そして受話器をとり、警察を呼び出した。
出典 『世界悪女大全』


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- 2007/10/08(月) 14:47:28|
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十九世紀のフランスで『アンベール夫人』の通称で実在したテレーズ・ドリニャック。金に狂った
悪女というのは歴史上数あるが、彼女の場合はなかなかの知能犯。実在しないヘンリー・クロフォードという大富豪を作り出し、自分が彼の遺産を相続することになったと周囲に言い触らした。
次に、これもやはり架空のクロフォードの二人の甥という人物を作り出し、その甥たちとの間に、クロフォードの財産をめぐる架空の法廷闘争を繰り広げた。これにより彼女は一躍時の人となり、法務大臣を父に持つフレデリック・アンベールに求婚されて玉の輿に乗る。
テレーズとクロフォードの二人の甥の法廷闘争が決着するまで、クロフォードの全財産である不動産権利証と有価証券は、公証人立会いのもとでテレーズの金庫に保管されることとなった。本当は封筒の中身はただの紙切れだったのだが、そんなことを知るものは誰もいない。
かくて二十余年にもわたって、テレーズと架空の甥たちとの間には財産をめぐる架空の法廷闘争が繰り広げられる。紛争が解決すればテレーズは大金持ちになるわけだから、フランス国内の銀行はほいほいと彼女に大金を貸した。二十年のあいだに、彼女が銀行から借りたお金は当時で六千万フラン。その金で別荘やヨット、宝石、名画を買いあさり、オペラ座の最高の座敷を買ったり、有名人を集めて大パーティを開くなど贅沢三昧を繰り広げた。彼女から金が返ってこないので倒産の危機に追い込まれた銀行もあったという。
テレーズの天才的(?)な詐欺の才能は、代理人を経由して届いた偽の遺言状、町の印刷屋で作られたアメリカの弁護士の署名入り便箋といった小道具の寄せ集めで真に迫ったドラマを演出した。
ついに彼女の弁護団は、クロフォード兄弟を敗北に追い詰めようとしたが、裁判に勝てばカラの金庫を開けるはめになるので、テレーズは相手側が受け入れるはずのない支離滅裂な条件を出すなど必死の引き延ばし作戦に出た。
さすがにおかしいと考え始めた当時のフランス首相が国会でこの事件を採りあげてテレーズを名指しで非難。弁護団長から汚名を返上するため金庫を開けるようにと迫られたテレーズは、自分の運もこれまでとみて、スペインに逃亡する。結局ここで逮捕されるが、事件の大きさに反して判決は五年の禁固刑という軽いものだった。マスコミは事件を大々的に報じ、彼女は英雄扱いされて、彼女の似顔絵の絵葉書が飛ぶように売れた。
ただし、裁判を傍聴した記者たちは、似顔絵とは似ても似つかぬ小太りのブスだったテレーズにひどくがっかりしたそうな……。
教訓 悪事を働くなら大胆かつ徹底的に?出典 『世界
悪女大全』


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- 2007/10/08(月) 12:12:51|
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『星新一 1001話をつくったひと」から創作に関する記述を抜粋。
3.草稿から脱稿まで 下書きに使うのは、手の力がそれほどいらない濃くて柔らかいBの鉛筆。書き損じた原稿用紙の裏面に、縦は原稿用紙サイズいっぱい、横は5センチ幅ぐらいの細長い長方形を作り、その中に小さな文字でショートショート一篇の下書きを書いた。これは、書き出しから結末まで、起承転結が一目で見渡せるようという工夫だった。
小さな文字がぎっしり詰まった長方形をながめ、練り、確信を得たところで原稿用紙に二度目の下書きを書く。このときはボールペンや万年筆で、マス目を数えながら書き進める。この段階では主に、文字数や改行の調整と、漢字かひらがなかの最終的な判断をする。
壁には内閣告示当用漢字表を貼り、そこにない漢字は使わない。
こうした推敲を経て、編集者に渡すための清書に移る。万年筆で一文字たりとも書き損じのない完全原稿となる。
また、一般的に作家が短編小説を書く場合、原稿用紙30枚で書ける小説を圧縮して6〜7枚にするが、この手法に星氏は異論を唱えている。
「圧縮感が出てしまう」と。
反対に、星氏は3〜4枚のものを7〜8枚に伸ばして書いた。この手法だといろんな要素を新たに加えなくてはならないので負担が大きい。星氏は自宅の電話や電気スタンドに創作メモを貼り付けていたという。
ある日のメモには次のような言葉が記されていた。
幽霊と催眠術 友情と動物園 月賦と殺し屋 ドラムと鬼 チョウチンとツリガネ まばたきと変装 左利きのサル 裏返しの憲法 やとわれた怪物……。(『短編をどう書くか』)
また、星氏が日頃から「健全な常識があってこそ、常識の枠を取り外した、意表をつくアイデアが生まれる」と強調していた(ちなみに、御堂はこれと同じことを吉本興業のマネージャーから取材で聞いたことがあります)。4.読み継がれるための継続的努力 本が重版するたびに、星氏は大幅な加筆修正を加えるタイプの作家だったという。ピークを過ぎ、新作の発表ペースが落ちてからは、この傾向にいっそうの拍車がかかった。
なお、交流があった手塚治虫も同様に、絵が古びることを気にして定期的に描き直していたそうだ。
ボッコちゃんに熱をあげ、通いつめていたが、のれんに腕押しのようで、恋心はかえって高まっていった。(新潮文庫 昭和46年5月25日発行)
ボッコちゃんに熱をあげ、通いつめていたが、いつも、もう少しという感じで、恋心はかえって高まっていった。(新潮文庫 昭和62年5月25日改版)
「高層アパート」は「マンション」に、「ダイヤルを回す」は「電話をかける」に書き直した。5.文体について 星氏の文体は初期の名作『ボッコちゃん』が原型だという。星氏も「ボッコちゃんで自己にふさわしい作風を発見した。自分ではこの作を、すべての出発点だと思っている」(きまぐれ博物誌・続)と述べている。
「あれだけはなんかほんとに神様が耳元で囁いてくれたという、よく書けたという感じがします」(別冊新評・星新一の世界)とも。
一つの文章はどれも短く、リズムがある。ほとんど過去形で語られている。地名や人名などの固有名詞や時事用語は使わない。
ショートショートを書く上では、次の三つを禁じ手として課していたという。
1)性行為と殺人シーンの描写をしない。
2)時事風俗を扱わない。
3)前衛的な手法を使わない。
私小説が全盛だったデビュー当時は、星氏の作品は「人間が描けていない」との批判を受けた。これに対して星氏は「人物をリアルに描写し、人間性を探求する手法が『人間を描く』唯一ではない」と反論している。
「ストーリーそのもので人間性のある面を浮き彫りにする」ことを自分のスタイルとした。
これは、アメリカの短編ミステリーの大半で実践されている手法。中学生時代に初めて星氏の作品に触れた荒俣宏氏は「星新一はアメリカの雑誌の文体を日本にもってきた人。SF作家というよりも、新しい文化とスタイルを輸入した人」という印象を抱いていたという。
以上のどこのカテゴリーには入らないが、個人的に激しく共感した部分を一つ紹介する。
「締め切りに迫られ苦しんでいるとき、唯一の支えは、ここ二十年、なんとか切り抜けてきたという体験ですな。だから今度も書けるだろう、と。それと同時に、ずっとネタのメモをとってきているから、いざとなったら質を落とせば書ける、という気持ちがある。これも安全装置なわけですな。だが、その誘惑との戦いの方がつらいですな。安易に走ればとめどなく下り坂。プロの一番の問題は、そこじゃないですか」
(共同通信のインタビューに答えて)
星氏の最後の仕事は、江坂遊氏の「あやしい遊園地」の解説。
「やれやれだ。ひと区切りというのは、すがすがしい気分だ。長生きしそうだ」
これが最後の一行となった。
改めて合掌。

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- 2007/10/04(木) 20:07:52|
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