2030年のタイムカプセル

つまらない大人にはなりたくない。

小説創庫 星新一のタイムカプセル 前編

星新一 一〇〇一話をつくった人星新一 一〇〇一話をつくった人
(2007/03)
最相 葉月

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『1001話をつくった人』――ショートショートの神様と称された星新一の評伝であると同時に、日本のSF小史にもなっている。さらに、気鋭のノンフィクション作家である最相葉月氏が五年の取材期間をかけた労作である本書は、ショートショートという一ジャンルを築いた星氏の小説作法が随所に散りばめられており、血がしたたるような小説読本として読むこともできる。

 1001話を書き上げた星氏は、創作にかかわる体力・気力を喪ってしまってからも、ショートショートコンテストの選評だけは執念をもって続けていたという。最後の仕事は、コンテスト受賞者で、自分の後継者と心をかけた江坂遊氏のデビュー作『あやしい遊園地』の解説だったそうだ。星氏が遺し、最相氏がすくいあげてくれた言葉の一端でも自らの糧にしたいものだ。
 こうした思いから、星氏の創作に対する心得や方法論に関する部分のみを整理してまとめてみたい。


1.発想法

 手探りで自分の方法論を模索していた初期の頃、参考にしたのがアイザック・アシモフ「空想天文学入門」の一節。
 1)知識の断片を、できるだけ多く、広く、バラエティに富んで備える。
 2)その断片を手際よく組み合わせ、検討してみる。
 3)その組み合わせの結末がどうなるかを、すぐに見通せるようになる。

 この三つをいかに効率よく、システマチックに行うか試行錯誤を重ねたようだ。星氏が作家生活を続けていく上で財産となったのが、脈絡がない単語を書き留めたメモ。一見関係のない言葉を組み合わせて意外性のあるストーリーを紡ぎだす努力を人知れず重ねてきた。
 ある編集者は、星氏の自宅で、袋に入れたメモを書き回しながら書き進める星氏の姿を目撃している。星氏の夫人はその姿を「料理を作っているようだった」と語っている。

 押しも押されぬ第一人者となり、ショートショートコンテストの選者として後継者作りに力を入れ始めた頃、最も期待をかけた江坂遊氏に明かしたのが「要素分解共鳴結合」という手法。
 星氏の没後、最相氏のインタビューに答えた江坂氏の説明を抜粋する(本文のままではなく、御堂の理解した形でまとめています。詳細は本書でご確認下さい)。本書で江坂氏は、星氏に絶賛された「花火」というショートショートを例にとって説明している。

 予めさまざまな言葉の断片をストックしておく。その中でたとえば、「殺戮」と「平和利用」という対立した言葉の断片を選び取る。これが要素⇒分解⇒共鳴⇒結合の「要素」になる。

 続いてこの二つの言葉=要素を「分解」してみる。一種の連想ゲームか。「殺戮」からは「戦争」「武器」「大量虐殺」「原子爆弾」などの言葉が浮かび上がる。
 ここで「殺戮」が「原子爆弾」に分解できたとする。対する「平和利用」からの連想で、原子力の平和利用を訴えた「アインシュタイン」が連想されたとする。この組合せで意外な展開が期待できれば「共鳴した」ことになる。あたりまえすぎて、物語として意外な発想が期待できなければ共鳴しないことになり、別の組み合わせを検討する。

 試行錯誤の末、「原紙爆弾」の代わりに「線香花火」を、「アインシュタイン」に対応するものとして「花火屋のおっさん」を置いてみる。すると、「線香花火」の背後に「原子爆弾」のイメージを重ねることで、きれいで儚い線香花火のイメージと残酷な光景が重なって浮かび上がる。一方、花火屋のおっさんに、アインシュタインの相対性理論を語らせるというアイデアも浮かんだ。このように、普通ではありえない組み合わせが生まれたときアイデアは「結合」する。

 これが、異質な状況設定を効率的に構築するために、星氏が編み出したテクニックだ。


2.ストーリーテリングの修行法

 星氏は、作家になる前後から、おもしろいと思った小説や映画、新聞の小さなコラム、小話があると、徹底的に暗記する習慣をつけていた。覚えた話を、いまでは伝説的存在となっているSF同人誌「宇宙塵」の集まりで披露した。人前で話すことで、話のポイントをうまく押さえて、短い言葉で要約するトレーニングになったという。
 これにより物語のコツをつかみ、自分の体と物語のリズムを一体化させていた。こうした土台があったからこそ、要素分解共鳴結合を行った際に、共鳴するかどうかが的確に判断できた。

 雑誌の取材で「プロットの作り方」と聞かれたときも「小話をおぼえてみたらいい」と答えたという。


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  1. 2007/10/03(水) 23:28:33|
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