「ここに一人の男が殺されています。私が殺したんです。私は逃げも隠れもしません。いまから愛する娘のもとに参りますので」
サリー・ポタートンは夫の死後、
ナースとして働いて一人娘を育て上げた。ところが娘のペニーは高一の頃から派手な化粧をして夜遊びするようになり、高二のとき、ついに恋人と家を出てしまった。
ペニーは同棲相手のモーリスに麻薬パーティに連れて行かれる。ロックの音楽が響きわたり、アルコールと煙草の臭いが満ちた会場。やがてうす暗闇のあちこちで男女が服を脱ぎ始め、絨毯の上で淫らな格好で絡み合う。ペニーも裸の男に隅のほうに引っ張っていかれ、床に組み敷かれて犯されてしまった。
その後はアルコールで朦朧となったところを、次々と男たちに犯されたうえ、麻薬の注射までうたれた。
ペニーはやがて薬なしではいられなくなり、その費用を稼ぐため通りで身を売るようになった。
そんな生活をつづけてきたペニーが妊娠してしまったため、モーリスは激怒し、ペニーに殴る蹴るの暴力をふるった。顔は腫れあがり口から
血を流し、腹を手でおさえながら、ペニーは部屋中を逃げ回った。毎日のように暴力はつづき、ついに耐えられなくなったペニーはそこを逃げ出し、恐る恐る我が家の玄関に立った。
ドアを開けた母のサリーは仰天した。ぼろぼろの服、垢と泥でまみれた体、膨れた腹と、あまりの変わりようにすぐに娘と気づかなかったほど。でも浴室に連れて行って体を洗ってやると、全身にできた打撲の痕、無数の
注射針の痕に、何もかも分かったような気がした。力のつく料理を食べさせ「悪い夢をみたと思って何もかも忘れるのよ」と言い聞かせて、翌日、サリーは仕事に出かけた。
ところが帰宅するとペニーの姿はなく、テーブルに置手紙があった。
「私は汚れきってしまいました。もう前のようなきれいなからだには戻れません。自分で自分の一生を台無しにしたのだから、責任は自分でとります」
翌日。川で変わり果てたペニーの姿が発見され、サリーは呆然とその場にたたずんだ。心には、モーリスへの憎しみが湧きあがった。
その日からサリーは、娘から聞いていたモーリスの実家の物陰で、彼が現れるのを待った。時おりここに帰ってきて、金や食べ物を巻き上げると聞いていたのだ。
二日、三日と待ち続け、四日目になったとき、夜霧の彼方に人影が浮かび上がり、それが憎んでも憎みきれないあの男であることにサリーは気づいた。前をすっと通り過ぎようとするモーリスの後を慌てて追い、手にしたサービスを彼の背中に押し当てた。
「抵抗すれば殺すよ。ペニーがあんたに会いたがっている。あの子は病気なんだ」
「わ、わかったよ、おばさん。物騒な真似はやめろよ」
モーリスはピストルを突きつけられたまま歩き続け、サリーの家に着いた。サリーは娘の部屋にモーリスを招きいれ、ベッドに横たわるよう命じる。モーリスは嫌な予感がしたが、仕方なく横になった。次の瞬間、腕にちくりと痛みを感じ、すーっと意識が遠ざかった。
意識が戻ったとき、彼はベッドの四隅に縛り付けられ、腕に
注射針をテープで固定されていた。サリーが何か器具を持って入ってきて、その管を彼の腕の
注射針に連結させた。モーリスはその管を通り、自分の
血がぽたぽた落ちていくのをみてギョッとする。
「な、何をする。ペニーはどこなんだ?」
「こうしないとあの子には会えないんだよ。もうこの世にはいないんだから」
彼の背を冷たいものがすーっと走りました。
「あの娘が死んだのはあんたのせいだ。あんたにも同じ目にあってもらうしかないね」
モーリスはこうしている今も、自分の
血が着々と抜き取られていることを知った。そのまま数分、数十分が過ぎ、静かに流れ落ちる彼の
血は、真紅の鮮やかさを増しながら、瓶の中で増え続ける。
「助けて! おばさん、後生だから助けて!」
モーリスは必死に叫んだ。
「僕が悪かった。そんなことになっていたなんて知らなかった。本当だ、許してよ、おばさん!」
知っている限りの言葉を並べ立て、必死に命乞いをしたが、サリーは意地悪い微笑を浮かべ、じらすように彼の顔をのぞきこむだけだった。
時に相手の訴えに心を動かされたふりをしてゴム管に手を伸ばす。が、すぐにまたスッと手を引っ込め、後はぽとりぽとりと鮮やかな
血のしずくが容赦なく落ちていくだけ。息を呑むような攻防戦を続けたあと、やがて朝は近づき、モーリスの声は悲鳴というより、意味不明の呻き声でしかなくなっていた。
サリーは黙って男の顔をのぞきこみ、腕をつかんで不規則に打つ脈を読み取った。脈がしだいに弱まり、ついに完全に止まってしまうと、サリーは男の真っ青な顔をまじまじとみて、憎しみをこめて
唾を吐きかけた。
そして受話器をとり、警察を呼び出した。
出典 『世界悪女大全』


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小説ブログ 現代小説花ブログ 生け花・フラワーアレンジメントテーマ:★小説創庫 - ジャンル:小説・文学
- 2007/10/08(月) 14:47:28|
- 小説創庫 創作の道しるべに
-
| トラックバック:0
-
| コメント:3
相互リンクのお誘いありがとうございます。貴ブログを拝見させていただき、非常に有益なブログであると感服しました。このようなブログ様から声をかけていただき光栄です。今後ともよろしくお願い申し上げます。
かつき様に比べると読書量がいかにも少ないと感じました。いっそう研鑽していきたいと思います。
- 2007/10/08(月) 23:06:07 |
- URL |
- 御堂なかよし #EmPGCRXI
- [ 編集]
御堂なかよし様、突然の勝手なお願いにもかかわらず、リンクのご了承をありがとうございました。
10/8 18:06:56に、はてなアンテナに登録しましたので、ご確認ください。
http://a.hatena.ne.jp/katsukix/
またこちらのリンクは貴ブログのどちらでもかまいません。長くお付き合いいただけたら嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
- 2007/10/08(月) 18:09:54 |
- URL |
- かつき #nG0hTmY.
- [ 編集]
記事と無関係の書き込み失礼します。
「新人賞をとって作家になる!」というブログを作っております、ハンドルネームかつきと申します。
御堂なかよし様が書かれている「2030年のタイムカプセル」を拝見し、ぜひ相互リンクをお願いしたく、書き込みをさせていただきます。
こちらは新人賞を目指す方々への新人賞情報、原稿用紙の書き方、応募原稿の送り方、作品の書評などの情報提供を行っております。
相互リンクは、はてなアンテナを利用した「新人賞をとって作家になる人たち」にリンクさせていただきます。
「新人賞をとって作家になる人たち」
http://a.hatena.ne.jp/katsukix/
はてなアンテナはリンクしたページが更新されると、自動的に一番上に表示されるシステムです。
もしもご了承いただけるのでしたら、「相互リンクのお願い7」という記事のコメント欄にハンドルネームとURLをご記入ください。後ほど、リンク終了のご連絡をいたします。
「相互リンクのお願い 7」
http://shinjinsho.seesaa.net/article/59593618.html
こちらのブログのリンクは貴ブログのどこでもかまいません。
ブログ名 新人賞をとって作家になる!
ブログURL
http://shinjinsho.seesaa.net/
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
突然の書き込みで恐れ入りますが、ご検討いただきますよう、よろしくお願いいたします。
またご迷惑でしたら、お手数ですが削除ください。
- 2007/10/08(月) 15:02:44 |
- URL |
- かつき #nG0hTmY.
- [ 編集]