2030年のタイムカプセル

つまらない大人にはなりたくない。

ショートショートの“牢名主” 江坂遊


 星新一が自らの後継者と期待したショートショートの書き手が江坂遊氏。最相葉月氏の『1001話をつくった人』を読んでから、この作家への興味が湧いたが、作品集を書店で入手することはできなかった(現在、amazonで古本を入手することは可能)。地元の図書館でショートショート集を三冊借りて読むことができた。

あやしい遊園地―奇妙で愉快なショートショート集 (講談社文庫)あやしい遊園地―奇妙で愉快なショートショート集 (講談社文庫)
(1996/03)
江坂 遊

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短い夜の出来事―奇妙で愉快なショートショート集 (講談社文庫)短い夜の出来事―奇妙で愉快なショートショート集 (講談社文庫)
(1997/06)
江坂 遊

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仕掛け花火仕掛け花火
(1992/12)
江坂 遊

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 一読して、豊かな物語性を感じた。星新一ショートショートに対する僕の印象は“スタイリッシュな小話”だ。意外性のある書き出しで始まり、伏線があり、奇想天外な落ちがある。落語にも通じるよくできたお話だ。これが名人芸であることに異論のある人はいないだろう。
 登場人物は、キャラクター付けを徹底的に排除されている。落語の“はっつあん”“くまさん”のように物語を動かすため一定の役割を与えられた、匿名性の高いキャラクターだ。エキストラしか登場しない映画のようなものかもしれない。

 これに対して、江坂氏のショートショートは、小話の枠に収まらないスケールの大きさを持っている。
 ショートショートコンテストでグランプリを受賞し、星氏に注目されるきっかけとなった『花火』の構成は、概ね次のようになっている。

 遠い夏の日。縁日に遊びにきていた少年は、風変わりな《花火屋》の前で足を止めた。屋台には何も並べられていない。腑に落ちない様子の少年を花火屋のおっちゃんは手招きする。少年の眼の前で、おっちゃんは魔法のような手並みで花火をみせてくれる。どれも、いままで見たこともないユニークな花火だ。

 花火を繰り出す時の不思議な掛け声は、アインシュタインが編み出した核融合の化学式だった。最後におっちゃんが、自分のからだに火を点すと、おっちゃんのからだがキラキラ光を放って、夢のように消えていった。

 それから時は流れて、場面は警察の取調室。少年はベテランの刑事になっていた。取り調べられているのは、ある事件の重要参考人。刑事は、その男に、少年時代に一度だけ会った花火屋のおっちゃんの面影をみる。世間話を始めるように、刑事は少年の頃の思い出を語りながら、目の前の男が花火屋のおっちゃんではないかという確信を深めていく。

 思い出話には快く応じていた男は、話題が事件のことに移ったとたんに口を開かなくなった。

「俺は助けたいんや!」

 叫ぶ刑事の前で、男はもう一度、魔法のような花火をみせてくれた……。

 こんな内容のストーリーが、原稿用紙10枚ほどにまとめられている。大阪出身の作家らしく、会話が関西弁で描かれていることもあって、星新一の「エヌ氏」や「アール博士」のような無機質な感じはない。人間の細かい心理や、驚くべきことに風景描写もしっかりと書き込まれている。
 ちなみに、この『花火』は、江坂氏のショートショートの中では、さほどスケール感を感じるものではなかった(少なくても僕にとっては)。作品集の中には、長編のプロットでも十分に通用しそうな物語や、一般的な短編〜中編程度には深みをもった「人間」が登場する。

 「1001話」などを読むと、江坂氏はショートショートでデビューを飾った後、大手出版社から長編の原稿依頼を何度も受けたらしい。しかし、すべて断ってしまった。あくまでもショートショートというスタイルにこだわり続けたのだ。ネットなどの情報によると、江坂氏は現在、携帯小説などを不定期で書いているそうだが、新作を読むのは非常に難しい状況になっている。それどころか、過去の傑作ですら、簡単に読むことはできない。

 まるでショートショートという形式と心中しているようだ。その覚悟には清々しささえ感じる一方、いかにも惜しい作家であるといいたい。



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  1. 2007/10/29(月) 23:20:36|
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