2030年のタイムカプセル

つまらない大人にはなりたくない。

グレーにこんがらがって 第3話 今日の天気は能天気


 荷物を取りに梓といっしょにホテルにいく。タクシーに彼女と二人で乗り込んだ。
 「とっとと来いよ」
 車のドアが閉まる直前、藤原の声が飛んだ。
 タクシーが走り出すと梓はホッとしたように筒井に話しかけた。
 「あーよかった。助かりました。何とかなるもんですね」
 この女はネジが何本か抜けているのか。筒井は梓の能天気さが勘に障った。

 「何とかなるって…何が? 本当は何ともなってなかっただろう」
 梓の笑顔が顔に貼りついたまま動かなくなった。
 「昼間のクレームもそんな態度が原因だったんじゃないのか? その場のノリだけで生きてるからいい加減な仕事しかできないんだよ!」

 空気がサッと冷え込んだ。筒井は彼女から顔を背けた。重たい沈黙が車内に充満した。タクシーは無言の客を乗せたまま夜の町を走った。

 「ごめんなさい」
 ボソッと梓が言った。
 「…………」
 「大阪からわざわざ邪魔しに来たようなもんですね、私」
 「そこまでは言わないけど……」
 筒井は女性を叱るのは苦手だった。一瞬、梓が泣き出すのではないかと思った。これで泣かれたりしたら最悪だ。

 「なんていうか………」
 何を言おうか決められないまま、筒井は言葉を絞り出した。疲れた頭でフォローの言葉を探した。
 「君……営業向けの性格してると思うよ」
 「……」
 梓は問いたげに筒井の顔を見つめた。
 「俺なんかさ……話術が巧みなわけでもないしさ、押しが強いタイプでもない。営業向きじゃないとつくづく思うんだ。その点君は、お客さんに可愛がられる性格してると思うよ。打たれ強い性格もある意味、営業向きだと思うしさ」
 「そうですか?」
 「詰めが甘いから今日はクレームになったけど、客の心をつかむ力がある人だから、経験さえ積めば、俺なんかより優秀な営業ウーマンになると思うぜ」
 「筒井さんはクレーム処理も的確で、すごく仕事できる人だと思いました」
 「それは、他にアピールできるものがないから。できることを真面目にやるしか取り柄がないんだ、俺なんか」
 「私……やれますかね?」
 「やれるさ、俺なんかより」
 「筒井さん……」
 「ん?」
 「元気出してくださいね」
 「…………」
 やれやれ。逆に励まされてどうするんだ。
 「なんか、元気出てきました。明日は今日の失敗を絶対取り返してみせます」
 「ああ…そんなに焦らず一歩ずつね」
 「はい! 一歩ずつやります」

 気持ちの切り換えが早過ぎるのが気になったが、とにかく梓の気分が持ち直したところでホテルに到着した。

(つづく)


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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2007/07/12(木) 19:37:17|
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